プロローグ
そこは多分夢の中での出来事だった。
もうぼくがずっといる白い部屋じゃないけど、なんだか殺風景な所だった。
眼の前にはぼくと同じくらいの子供がいた。
あの子はぼくの夢に現れてはただ寄り添うように隣に座っていた。
一番はじめに出会ったとき、ずっとしゃがみこんで膝に顔を埋め込んでいるぼくの隣に無言であの子は座った。
ただ静かに繋がれた右手。
夢なのに自分以外の体温を感じてぼくは崩れるように泣いた。
泣き縋る自分を静かに抱きしめるあの子にぼくは確かに繋がりを感じた。
ただ辛いと嘆く心が流れる感覚だった。夢の中で会うたびあの子の体温を感じ、繋がりを見つけることに安堵した。
会話はほとんどなかったが、ぼくの気持ちはあの子に伝わってる気がした。
だからだろうか。ぼくが限界を感じ始めていた頃、初めてあの子はぼくに話しかけてきた。
「あなたが痛いときには私とはんぶんこしよう。」「私はずっと傍にいるよ。」
それからあの子は夢に出なくなった。
その日から起きてからもあの子と繋がっているかのような感覚があった。だが温度を感じることができなくなり、右手はずっと冷たかった。
繋がっているのに傍に居なかった。
あの子と離れてそんなに経たずぼくの身体は動かなくなっていた。
その時聞こえた謎の声。助けようとする意思を聞き、3つを考え続ける。
そうしていると助けが来た。
ぼんやりとしか思考できないぼくが意識を失う前に考えたのは、あの声の主。
そして薄らぐ意識と共に途切れていく繋がりの先の人物のことだった。
意識が戻った遊作は一番に途切れている繋がりに気付いた。
最初から何も無かったかのように、居なかったかのように無くなったそれは遊作を酷く動揺させた。
あの子を証明する繋がりが消え、ただの夢だったのだとしか言えない現状が耐えきれなかった。
だがあの子が遊作にくれた言葉の記憶。それだけが存在していた証だった。
_____あなたが痛いときは私とはんぶんこしよう
私はずっと傍にいるよ
ロスト事件以前の記憶をすべて失い、事件の記憶は遊作を苦しめた。
孤児院のベッドの中で目をつぶり遊作は自身の右手に左手を握らせる。
目を閉じ遊作は一人つぶやいた。「傍にいる」それは遊作の毎日の習慣になっていた。
遊作が孤児院に来て一年経つ頃、孤児院に新しい子供がやってきた。
「よろしくお願いします。」
その声は遊作がずっと探していた声だった。
興味なさげに俯いていた遊作は勢いよく顔をあげた。
そこにはこちらを向いて穏やかな笑顔のあの子がいた。